記憶だけのかんそうぶん:『男たちの挽歌』

 

男たちの挽歌 <日本語吹替収録版> [Blu-ray]

男たちの挽歌 <日本語吹替収録版> [Blu-ray]

 

 以下敬称略のこと。

 

男たちの挽歌』。

原題の『英雄本色』を和訳するなら、「英雄」はそのまま英雄、ヒーロー。

「本」は本来の、根源の、という意味。

「色」は色合い、模様とするとして、

 

「真実の英雄(たち)の模様(群像)劇」

 

とでもするのが適切だろうか。

パッケージの「恥じて生きるより熱く死ね!」という煽りからして映画の結末まる見えでネタバレもクソもないのだが、まぁマッチしてるコピーだからそれはいいや。

 

制作総指揮はツイ・ハーク、監督と脚本がジョン・ウー

このコンビ、コテコテに濃い、それ故に忘れられない魅力を放つ "男の美学" を、画面からストーリー、小物にまでギュウギュウに詰め込む作品を撮り続ける「男たち」なのであるが、『男たちの挽歌』はそれを世界に知らしめた記念碑的な作品なんですよ。

 

ストーリーはシンプルで、ティ・ロン演じる主人公(そう、忘れられがちだが主役はチョウ・ユンファではない!ウィキでもティ・ロンはユンファの下表記だけど!)ホーと、チョウ・ユンファ演じるホーの弟分であり相棒であるマーク、ホーの実弟キットの3者による、所属していた世界から弾かれた男たちの報復劇。

ケジメをつけるために、「かって」を取り戻すために、正義を守るために、男たちは愛憎入り乱れて終局へ向かっていく。

 

大まかなストーリーはここらで置いておいて、作品の見所。

見所そのいち。

ジョン・ウーの特色である、「悪役を色っぽく見せる」演出の秀逸さ。ホーとマークをジワジワと追い詰めていくグラサン刑事であったり、裏切りにより仕事に失敗して逮捕されたホーの父親を殺すべく遣わされた暗殺者であったり(『男たちの挽歌2』の敵は凄いよ、あの説得力と迫力!見りゃわかる)、『フェイス・オフ』のケイジなんかちょいとやり過ぎではあるけど、ウーが得意とする「悪役の美」の演出が最高!

作品中、上記二人の台詞はほとんど無いに等しいのに、強く印象に残る華の鮮やかさは異常!

「バイオレンスの詩人」と評されるウーだけど、それは直接的な暴力描写だけではなく、暴力を振るう "予感" のフェチズムの凄さまでを含めて称えられている。あんな陶酔しきった画づくりは、当時の香港映画界にあって、唯一無二だったんだろうなぁと。

 

見所そのに。

チョウ・ユンファのガンアクション。裏切られ逮捕されたホーの仇を取るため、日本料理屋に単身カチ込んでいく前半のシークエンスは、この作品のハイライト。誰に聞いてもそう言うだろうってポイント。

仇が集まる個室までの狭い廊下を、セクシーな、しかしよく見ればそうでもない女性(あれ誰なんだよ)をクルクル踊るように口説きつつ、ベレッタを観葉植物の鉢に隠していくスローモーション。

仇が楽しく会食している個室の戸を開けるなり(日本料理屋だからかポン刀が飾られてた)2丁拳銃で空ッケツになるまで乱射乱射、弾が尽きたらさっき観葉植物に隠したベレッタ取り出してまた乱射!

これはねぇ、スペクタクルでした。単騎ってのがまたいい。

見ればわかるシーンです!

伏せたまま言うけれど、脚が不自由になった後のガンアクションも「らしさ」満載で目が離せない。

地下駐車場での撃ち合いなんかまさにそう。

ボロッボロのコート着て、掃除道具を積み込んで運ぶ手押し台車みたいのに横這いに乗って、商売道具を弾除けにしつつガラガラーッ!と走らせながらの銃撃とか。何度見てもカッコ良い!

 

これ、上映時間も90分ちょいで、週末の夜とか休日の午後に頭を空っぽにして見る娯楽にピッタリはまる。アクション映画の醍醐味、ラストに大爆発(すげぇ!!)もツッコミどころもありますし。銃弾の摘出手術してんのに滅菌せずにボロい私服で、廊下から扉一枚で隔てられた(!)手術室に入っちゃったりとか。それ雑菌で死んじゃうよ!!

などなど、アクション映画好きでまだ未見の方はマスト鑑賞。

 

ちなみに『男たちの挽歌』を冠するシリーズは複数あって、『2』は続編だけど『新』とかは関係ない。こりゃ面白いってんで立て続けに見てしまうとコッテリし過ぎてお腹を壊すと思うので、それだけは注意。

けどオススメ!

ゲームもあるよ『ストラングルホールド』!

無限に楽しいね!

 

 

 

 

 

 

で、まぁここからは映画を観ただけ、かつ観てからしばらく時間を置いたあとの勝手な考察。だから間違ってるかもしれないし、思い込みかもしれない、そこは理解してくださいな。

 

この映画の根底に描かれているもの、それは「香港」という、公開当時(1980年代)の中国という国にあって、 "本土" へと向けられる特殊な場所故の複雑な愛郷心の叫びでもあるんじゃないかと。 

香港は、1997年7月1日に主権がイギリスから中華人民共和国に返還されるまで、外国の植民地だった(香港内部の独立派は、この主権委譲を「香港陥落」と表現したりとか複雑だけど)。

作品のボスとなるかっての手下に顎で使われ、駄賃を手渡しでなく街路にばらまかれては不自由な脚でひょこひょこ拾うマーク。

地下駐車場に拵えた貧相な生活スペースで、駄賃で買った飯を掻き込む。

そこには、黒のロングコートを翻し、無造作に贋札に火を付けてタバコを吸う、肩で風を切っていたかっての面影は微塵も見られない。

「取り戻したいんだ、あの頃を」

涙ながらホーに訴えるマークが言う「あの頃」とは、ホーの弟分として共に香港を闊歩していたかっての栄光と関係性だ。

兄弟の絆、そして栄光を取り戻したいという思いに係る根底の感情、それが暗に示唆するものは、イギリスが、次いで日本が、そしてまたイギリスが分割した、香港と大陸との関係性ではないか。帰郷心というか。

この台詞の前段となるシーンで、マークが組織からリンチを受けているのは、日本の某航空会社っぽいロゴ(だったと思う)のネオン看板の下だった。

一方的に受ける多人数の暴力行為を照らすネオンの灯り。そこに象徴されている日本というもの。

それを受けて、ホーが敵方のボスに通告を突き付けるシーンで背景を走っている2階建てのバスはイギリス製っぽくて、リプトンの紅茶の広告がデカデカと確認できる。

避けられない流れに覚悟を決めた男の背景を走っていく、イギリスを象徴するもの。

香港を纏う外国の面影。

この映画は、それに反逆する、そこから脱出しようと足掻く「男たちの挽歌」でもあったのではないか。

 

………にしてはそれらの象徴が映るのは一瞬だし(知識がある人が見れば他にもあるかもだけど)、イギリスや日本の統治政策や、それに対して香港内部ではどんな意見があったのかなんて無知だから知らないし、ハークやウーがどんな思いを持っていたのかも知らない、非常に無責任な意見で感想だけれども。

 

ま、小難しいことはさて置いて、そんなもの抜きでもじゅうぶんに楽しめる名作なので、ぽかんとした時間のお供に、是非。

あ、親しみを持ちやすくするための小ネタ。

チョウ・ユンファ劇団ひとりに似ている、とはよく言われる事だけど、主演のティ・ロンコロコロチキチキペッパーズナダルに似て……いなくもないよ!

確認してみて!

 

というところで、かんそうぶん終わり!