『来る』を観た。松たか子の右クロスと岡田准一のバンプ

タイトルがアレだけど、映画『来る』を観てきた。その感想を。ネタバレ含みます。以下敬称略。

 

 

 

 

 

 

 

監督の中島哲也は『渇き。』で知った。

汗とか埃とか血とか、『渇き。』は汚れの生々しい演出が抜群に上手いなぁと思った作品だったけど、それは『来る』も同様で、岡田准一演じるライターの野崎のオンボロな車とか、柴田理恵演じる霊能者が初登場する中華料理屋とか、各自の「傷」とか、そりゃあ見事な汚さっぷりで、こういった衣装、美術、演出はそれだけで一見の価値がある。オープニングのサイケデリックな色彩感覚とか、この監督の映画は(といっても観たのは2作品のみだけど)とても強烈で印象的なビジュアルがあって良い。

 

で、内容なんだけども、これは純然たるホラー映画として見ると割とB級。B級なんだけど、それは多分敢えてそうした意図もあって、楽しいB級感覚というか、エンタメ性を重視したサスペンスホラーだった。

「怖さ」を期待して観ると拍子抜けかもしれない。

劇中一切明確な姿を見せない「あれ」としか言われない怪異の描写は壮絶かつ強烈で、おそろしさというよりも爽快さすら感じる無敵っぷりはある意味楽しい。いや怖いんだけど楽しい。とにかく凄まじい!

「あれ」に対処すべく、最強の霊能力者とされる琴子(松たか子)の呼び掛けで続々と霊能者たちが集結していくんだけど、その驚異度を計りきれないまま、有名な霊能者(柴田理恵)は片腕を食い千切られ、沖縄から来たユタたちは「化け物退治に来た」と東京観光ウキウキ気分で言ってたら一蹴された挙げ句念入りにトラックの追い討ち。ここら辺から映画オリジナルの展開に。

神道系なのかな?知識がないのでわからないが、新幹線で向かっていたおじいさん達はその現状を受けて分散する事を決め、横浜で降りたり直行したりと各自で目的地を目指すことに。「誰か一人くらいは着くやろ」って淡々と言う台詞はカッコよかった。

「あれ」の驚異渦巻くなか、霊能者たちが集結し、物語はクライマックスへ。

この映画には色んなジャンル─仏教から神道、沖縄土着信仰エトセトラエトセトラ─の霊能者が出てくるのだけど、というかそのクライマックスで、警察は現場一帯を封鎖、マンションの住民すら追い出してシャットアウトし、「使えるものはなんでも使う」琴子は科学者すら動員して一堂に会し、徐霊ミュージカル(観た人は大概似た感想を持つと思う)ともいうべき壮大な仕掛けをするのだけど、「あれ」とだけ称される怪異はそんなものまったく一顧だにせず、霊能者たちはほぼほぼ全滅、絶望感溢れる死に様を晒していくんだもの。

ここのアップダウン。

「何がおこってるの…」から「どうにかなる?」へ、そして「どうにもならんわ!!」っていう感情の運びに楽しく乗せられた。

 

この、まさしく化け物級の無敵さを誇る「あれ」も見所なんだけど、それ以上にじっくりと描かれているのは「魅力的で怖いのは人間もだよ」っていう部分。

原作を改編した脚本が実に良く練られていて、ミステリーの要素で進む田原夫妻の真実、友人関係含めた裏表の因果関係が綺麗に謎解きの言語を忍ばせて整理されている。時間的な制約の中で、原作では散らばっていた役割を集約させ関連させるのが上手い。

また、それぞれの役者の演技もとても良く、自己愛男を演じる妻夫木聡、追い詰められていく黒木華(死に顔がとても良かった。いやホラーの文脈でね!)、時代劇で見せる品を投げ出してラフに泥臭く演じたぼくらのひらパー兄さんこと岡田准一。言ってる事は容赦なくて突き放したように冷たくもあるのに、琴子の人柄の面白さ(所作が良かった。股開いて座ってビール飲んだり)を見事に表現する松たか子。そして人の恐ろしさを煮詰めた豹変ぶりを華麗に、色気たっぷりに見せる青木崇高

登場人物の持つ、それぞれに魅力的な見せ場が巧いこと抽出されてて。

ラストの野崎の台詞がそれを回収、満足できた映画だった。

 

で、まぁこの感想文のタイトルなんですけど、霊能力者集結→大祓い大会の流れの中で、松たか子演じる琴子が、すがり付く岡田准一演じる野崎を横殴りにぶっ飛ばす引きのシーンがあるんだけど、これがもう一級の出来で。

この映画で一番感動した。

鋭い右クロス。受けてぶっ飛び昏倒する野崎。

勿論当てブリなんだけど、この迫力、この説得力!

「見るとこおかしくね?」と友人には言われたけど、これはしかし見るために映画に行く価値のある絶品シーンだから!

ストーリーに特に触れないまま終わるけど、『来る』はたいへんに良くまとまったエンタメ映画でホラー要素も強くはない。けど血はドバドバどころじゃないくらい出てくるので流血(噴血)耐性があるならオススメ!

2018年の締めくくりは松たか子の右クロスで!